就労抑制につながらない進学支援を 高等教育費の漸進的無償化と負担軽減を考えるシンポジウムで赤石理事長が提言

9月14日、労働者福祉中央協議会(中央労福協)が、「高等教育費の漸進的無償化と負担軽減を考えるシンポジウム」を開き、しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長がパネリストとして出席しました。

文部科学省が2020年4月に始めた修学支援新制度について、「ひとり親家庭の進学の幅を広げた」と評価する一方で、「非課税世帯が対象のため、ひとり親の就労抑制につながっている側面がある」と指摘し、制度の改善を求めました。

議論に先立ち、文部科学省学生支援課の吉田光成課長が、住民税所得割非課税世帯を対象に、大学、専門学校の授業料などを3段階で支援する「修学支援新制度」と、「貸与型奨学金」について説明しました。

修学支援新制度は2024年度から年収600万円までの、多子世帯や理工農系に進学する子どもに対象を拡大。また、貸与型奨学金についても、大学院の授業料後払い制度や減額返還制度などを導入するそうです。

続いて、労福協の高等教育負担軽減へ向けての研究チーム(主査:大内裕和・武蔵大学教授)が「高等教育費の漸進的無償化と負担軽減へ向けての政策提言」を発表しました。

大内教授は、提言の背景として「専門学校を含む高等教育進学率が80%を超えた」「人生100年時代を迎え全世代型の高等教育が必要」「教育費がネックとなって進む急速な少子化」の3点を挙げました。その上で、国の修学支援制度の対象年収を4人世帯380万円から600万円まで引き上げることと、高等教育の公的予算を倍増して授業料を半額にすることを組み合わせ、全ての子育て世帯にメリットがある制度にすることを提案しました。またすでに貸与型奨学金を利用し現在返済している人にも、負担軽減措置が必要だ、としました。

パネルディスカッションでは、認定NPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長が同団体のファミリーサポートに登録している家族への調査をもとに、高等教育が家計に与える影響を説明しました。

高校生以上の子どもがいる世帯は借入金ありが56%と、いない世帯より10ポイント高く、借入金の種類は教育ローンが19%を占めています。子どもへのアンケートでは「お金がないから進路が狭まった」「塾に通うことができなかった。参考書を買うのをためらった」「兄弟も多く、就職する予定です」などの声がありました。

また、給付型奨学金を利用し進学しても、「学費が払えずに退学する」「学費や生活費のためのアルバイトで勉強が滞る」ことへの不安は、それぞれ72%、88%にのぼりました。

国民生活基礎調査で2011年と2021年を比較すると、年収600万円以下の世帯は47・5%から36・6%に激減し、年収900万円以上は22・6%から31・4%に増えています。渡辺理事長は「もはや年収600万円は下流。奨学金の拡充や修学支援対象の年収引き上げが必要です」と訴えました。

認定NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長は、文科省の修学支援新制度について「この制度があったから子どもを大学に行かせられた、というひとり親がとても多い。画期的だった」と評価しました。

一方で、年収により段階的に給付が減ることから、「利用し続けるためにはいくらまで働いていいですか?」とシングルマザーから聞かれることが多い、と明かしました。「所得制限が就労抑制につながっている。生活苦からの脱却を目指し、収入アップのための就労支援をしているはずが、修学支援制度を利用するために非課税の枠内でしか働けない、という人がいる。対象を年収600万円に引き上げることが必要です」と話しました。

また、非課税世帯でないとコロナ禍で利用した貸付金の返済を求められるため、「あと3年間は稼いじゃいけない」というシングルマザーもいます。

「月収30万円、40万円になっても大丈夫。子どもを大学に行かせられて自分の老後の蓄えもできる。そういう制度にしていただきたい」

また、法制審議会で議論されている共同親権についても、「修学支援や奨学金を受ける際の親の収入に、別居親のものも含むのかどうか」「子の進学先を離婚後の父母が共同で決めるのは困難ではないか」など、高等教育にかかわる多くの論点が議論されずに残っている、と指摘しました。

日本若者協議会の室橋祐貴・代表理事は、提言の中間層への支援拡大に賛成だと述べました。「子ども2人が同時に大学に通う場合、年収900万円台でも生活が厳しい。私立大学の費用は年々上昇している」としました。

そのほか、ひとり親世帯や低所得世帯、多子世帯の学生から聞こえてくる声として「奨学金の入金が入学後になるため、入学金や前期授業料の支払いに苦労している」「給付型奨学金をもらえるかで進学先も変わる。もっと早くに決めてほしい」「高校時代からの奨学金と合わせると多額の借金となり、社会人になってからの返済が厳しい」「授業料だけでなく、生活費のためのアルバイトで時間的余裕がない。給付型奨学金のボリュームを増やし、生活費に使えるようにしてほしい」などを挙げました。

パネリストからは共通認識として、奨学金の成績要件の緩和や、奨学金の前倒し給付などが必要という意見が出ました。

大内教授は「財源を2倍にすれば提言の実現は可能。高等教育は受益者負担、という考え方を変えていかないと社会がもたない」と強調しました。