社会保険の適用拡大 賛成6割、反対4割 国保の負担減や傷病手当は評価 手取りが減ることへの抵抗も 社会保険適用拡大懇談会でヒアリング

国が進める社会保険の適用拡大を、中小企業やパートで働くことの多いシングルマザーはどう受け止めているのでしょうか?

厚生労働省の有識者ヒアリングに答えるため、しんぐるまざあず・ふぉーらむのメルマガ会員に社会保険(被用者保険)の適用拡大の対象となったことがあるかどうかや、よかった点、心配な点についてお聞きしました。

2月22日〜3月1日にWEBアンケートを行い、127人から回答がありました。

回答者の内訳はシングルマザー126人、シングルファーザー1人。平均年齢は44・2歳で、末子の年齢は小学校高学年(26%)、高校生以上(25%)、3歳以上小学校就学前(20%)とばらつきがありました。同居する子どもの数の平均は1・54人。2024年1月の平均月収は12.1万円で、2023年の年収は、社会保険加入目安の「年収の壁」にかかる103〜130万円の層が最多で、全体の4分の1を占めました。

就労形態では、パートタイマーが全体の70%、正社員は16%、派遣労働者7%、フルタイムの契約労働者7%でした。パートで働く理由は「育児・介護等の事情があるから」(54人)、「都合の良い時間帯や曜日に働きたいから」(40人)などでした。

国は社会保険の適用対象を中小企業のパートタイマーにも広げていく方針です。2022年10月からは、週の労働時間が20時間以上で、月収8・8万円以上、雇用見込み期間2ヶ月以上で学生ではないパート、アルバイトの人を対象に、従業員数101人以上の企業で社会保険・厚生年金を適用としました。24年10月からは従業員数51人以上の企業に対象が拡大される見込みです。

厚労省の資料によると、月収8・8万円の人は、これまで国民年金・国民健康保険料の本人負担が月1万9400円でした。厚生年金・(社会)健康保険料に変わると、保険料2万5000円を会社と折半し、1万2500円が給与から天引きされる仕組みです。一見、負担減に見えますが、国民年金、国民健康保険の減額や免除を受けている人にとっては、手取りが減り、負担増になります。

アンケートの回答者のうち、社会保険の適用拡大を受けたことがある人は全体の35%いました。

このうち、適用拡大が「よかった」と答えたのは41%。

・手取りは減りましたが、会社に半分支払いをしてもらえるし、保険証を持つことができて自己肯定感が上がりました。またけがをして就労出来ない期間に傷病手当をいただけて助かりました。年金の足しになる安心感がありました。

・手取りは減ったが、保障という安心を得ることができた。

・国保に入るよりいいし、子どもも社会保険の扶養に入れることができる。

・制限がなくなり収入が増えた。社保加入によって国保と国民年金の負担額が減った。

一方、「よくなかった」も26%いました。

・収入が中途半端だったので、保険料を引かれると手取りが少なく、ひとり親としての生活が苦しかった。

・年金や社保に入れたのは良かったが、元々の給料より2万円以上減ってしまった。そのため生活費で精一杯で食費まで回らなくなってしまい、家賃滞納にも陥った。

・国民年金を免除されている収入なのに、社会保険に入らないといけなくなり、(手取りの)収入が減る。年金が増えるのは良いのかもしれないが、今現在収入が減るのは困る。

健康保険・年金の加入状況では、「社会保険に本人が被保険者として加入している」(59%)、「年金保険料の免除手続きをしており、国民健康保険に加入している」(25%)、「国民年金の被保険者になり、国民健康保険に加入している」(13%)。

社会保険に加入していない51人に、加入を希望するかどうかを聞いたところ、「希望する」59%、「希望しない」41%と回答が分かれました。

「希望する」理由は「将来の年金額を増やしたいから」「現在加入している年金保険料・健康保険料の負担が軽くなるから」「傷病手当などをもらえる権利ができるから」。

一方「希望しない」理由は「手取り収入が減少するから」「できるだけ負担は減らしたいから」「年金制度をあまり信用していないから」でした。

最後に、社会保険適用拡大の際に必要だと思う施策について聞きました。

・国民年金同様に収入の低いひとり親は免除してほしい。

・年金免除があるといい。

・児童扶養手当が、もう少し現実的で充実したものになればよいと思う。

・週15時間以上で社会保険に加入でき、副業の時間も取りやすいようにしたい。

・末子が18歳以降の支援が少しでもあればよいと思う。

・働き損に感じられる制度設計はやめてほしい。

調査のまとめとして、しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長は「パートで働く人への社会保険適用拡大に関してひとり親の賛否は分かれた。収入が低い層を中心に、手取り収入が減ることからくる消極的な意見が4割程度あった。一方、6割は年金額が上がること、国保に比べ保険料負担が減ること、傷病手当の権利が発生することなどを理由に拡大に賛成している。社会保険料の減免を希望する人は多かったが、制度的に可能なのかどうか。最低賃金の上昇に見合った、住民税非課税ラインの引き上げ、児童扶養手当の増額などを行い、総合的には可処分所得を上げていけるような制度があるといいと思います」と提言しました。

赤石理事長は、本調査について、以下のようにコメントしています。

「日本の税制社会保障が、片働き世帯優遇政策を長く取ってきたためジェンダー不平等が続いてきました。その影響がひとり親の困難を助長してきました。社会保険の適用拡大は、ゆるやかな改善につながると認識しています。しかし現実のひとり親の現状をお伝えすべきだと考え、今回ミニ調査を実施いたしました。」