5月23日 合同記者会見「DV・虐待被害者を危険にさらす共同親権案に反対」を開きました

現在、法制審議会で検討中の共同親権導入案が、「DVや虐待の被害者を危険にさらす恐れがある」ことについて広く知ってもらおうと、4団体とDV被害当事者が5月23日、厚生労働記者クラブで合同記者会見を開きました。

訴えたのは「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」のほか、DV被害女性を支援する「全国女性シェルターネット」、DV被害当事者団体「Safe Parents Japan」、子ども・子育て領域の社会課題解決に取り組む「フローレンス」です。

DV被害者を危険にさらす可能性

きっかけは5月16日の部会で法務省が検討のたたき台として提出した資料。「親権は父母が共同して行う」とし、子の居所の指定・変更についても「父母の離婚の前後を問わず、父母双方が共同で行うべきことが原則」と記載されていました。

「父母の意見が対立するときは家庭裁判所の調整が図られる」とし、父母のどちらか一方が単独で決めることは「一方が行方不明の場合」や「緊急の場合」など例外的なケースとしています。緊急性について、誰がいつどのように判断するのかは定まっていません。緊急案件と認定されるまでの間は子どもの居所指定権が有効であり続けることになり、DVや子どもへの虐待があって、子どもを連れて逃げるような切迫したケースの被害者は救われなくなります。

法制審議会の委員を務める「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長は「協議離婚で真摯な合意がある場合に共同親権を認める方向で検討が進んでいるが、何が真摯な合意にあたるのかは明確ではない。5月の部会では離婚後の親権を婚姻時の親権と同じに規定する案が話し合われたが、同居や協力の義務がない離婚後の夫婦の親権のあり方は、婚姻時とは違うはずだ」と述べました。また子どもの日常の世話(監護)をする監護者を父母のどちらかに指定しない案についても「明日から誰が子どもの面倒をみるのかわからないことになり、乳幼児では命にかかわる」とし、居所指定権については「議論はこれからだが、居所指定権が認められたら、DV被害者はどうやって逃げたらいいのか」と問題点を指摘しました。

NPO法人全国女性シェルターネットの山崎菊乃・共同代表は自身の体験も交えながら、「DV被害者にとって住所を突き止められ、追われることがどれほどの恐怖か」と話し、「DV防止法を根拠に多くの被害者やその子どもたちが利用している住民票の閲覧制限がなし崩しになってしまう」と警鐘を鳴らしました。「法律で共同親権、共同監護、居所指定を決めないでということをDV被害者の代弁者としてみなさんに強く理解していただきたい」

当事者2人も登壇

▼30代のAさん

DV被害の体験を持ち、去年離婚が成立、もうすぐ5歳の子どもと暮らす30代のAさんは離婚前の状況について、「(元夫は)話し合いをしようにも、気に入らないことがあると、怒鳴って暴れ、皿を割ったりと暴力行動に出る人だった。身体的暴力も何度もあった」と話しました。

「(暴力の)原因を作っているのはお前だ」と言われ、支配とコントロールの下、精神的に衰弱し、離婚や別居などの正常な判断ができなかった、と言います。警察や弁護士らのサポートを受け、やっと元夫から離れられ、心身ともに元気になり、かつての自分を取り戻しました。

共同親権が導入されれば、「ことあるごとにもめごとなり、時間や労力をとられて疲弊していくことは目に見えています」と予測。「もう1ミリも信頼関係がない。信頼関係はすべての根幹。信頼関係が全くないのに、すべてのことを話し合ってください、と強制されるのは不可能です」と訴えました。

板挟みになる子どもにとっても「紛争に巻き込まれ、悪影響になる」と考えています。「DVによる恐怖と支配におびえ、子どもの前でも笑顔でいられなくなるような環境に置かれてしまう。命に関わることは慎重に慎重を重ね、議論を尽くさなければならない。当事者の声を聞いてもらって、子どもを争いごとに巻き込まないように守っていきたい」と話しました。

▼大学生のBさん(19)

大学生のBさん(19)は、幼いころから父親が母親に暴言や暴力を振るうのを目の当たりにして育ちました。7年前に母親の通報を受けた警察に父親が逮捕され、接近禁止命令を受け、離婚しました。いまは母親と暮らしています。

共同親権について「もし母が離婚するときにこの制度があったら、私の居住地や進学先を決める時に、毎度大きなトラブルやいざこざが生まれ、大変なことになっただろう」と考えています。両親の離婚後の生活については、「子どもにとっても圧迫感や緊張感がなくなり、母親に笑顔が増えた」と振り返りました。

Bさんは15歳の時に自主的に父親に連絡を取り、定期的に食事やメールのやりとりをしていると明かし、「離れることになった親とも精神的に余裕ができ、生活に余裕が生まれれば会ってみようという意思が生まれることもある。強制的に面会を強要されたらそんな気持ちは生まれなかった」と述べました。

ー*ー*ー*ー

当事者団体「Safe Parents Japan」のアドバイザーを務める斉藤秀樹弁護士は、「法制審議会の議論の中に心配するところが多々あるが、共同親権で居所の安全が脅かされようとしていることが当事者にとって非常に危惧するところだ」と指摘しました。

現在の民法の親権に関する規定は「監護教育」「居所指定」「職業許可」「財産管理」の四つ。このうちの「居所指定」について法制審で6月にも議論され、これまで監護親が決定するものだった居所を、父母が共同決定するべきだという提案が出される見込みです。居所の共同決定は、居所を隠すことができなくなるということ。いまも、住民票の閲覧制限漏れで、ストーカー殺人や加害者が家にやってきて転居を余儀なくされるなどの被害が起きています。

斉藤弁護士は「DV防止法が改正されても接近禁止命令は一定期間のみ有効で、被害者はずっと守ってもらえるわけではない。アメリカでは15年間で960件の殺人事件が起き、日本でも2017年に長崎と兵庫で面会交流中に別居親に子どもが殺される事件が起きている」とし、「当事者は命の危険を感じている」と訴えました。

厚労省のイクメンプロジェクトの座長を務めるNPO法人フローレンスの駒崎弘樹会長は「男性の子育てを奨励する立場の私が、共同親権に危惧を抱いているというのが、ある種の象徴なのではないか」と発言。「両親とも家事育児に参加するのはいいこと。しかし、別れた後に、親権をもって子どもの居場所やどこの学校に行くのかまで口を出せるということの危険性がある」とし、DVや厳しい状況の親について知らない法律の専門家が「ひっそりと不可逆的に議論を進めてしまうと、制度化した時に地獄のような状況が生み出されてしまう」と危機感をあらわにしました。

4団体は連名で緊急声明も発表しました。

共同親権の導入に慎重なことを大前提に次の三つのことを表明しています。

・「子どもの居所指定権」など、子と同居親を危険にさらす共同親権案に反対します。

・監護者を決めないと子どもの生存を脅かし貧困を助長します。

・親権停止では「子どもの利益」を守れません。

当事者は声をあげにくい。このまま進めないでほしい

記者から「当事者が声を出しにくい状況があるが、どのように声を届けようとしているのか」と問われ、駒崎さんは「DV被害にあった方々は強い危機感を持っているが人前でしゃべることができない立場にある。一方で、別居親側はどんどん発言できてしまう。この非対称性によって、世論がつくられていったり、政治家へのロビイングが行われたりしている。わかりづらいテーマで、途中経過であるが、記者会見をして議論をつまびらかにし、非対称性をなんとか埋めたい。ちょっと待ってください、慎重に考えてくださいと法制審側に伝えていきたい」。

赤石さんは「法制審議会でも支援現場に近い人や弁護士ら実務家はほとんど(共同親権に)留保をつけている。現実をきちんとご存じない方々によって原案が練られ、要綱が練られ、その結果、命を脅かされる人が出てくるかもしれない。その局面にいるのだということを必死に訴えるしかないと思っています」。

山崎さんは「私たちは逃げ隠れしていて、こういうところに出ることによってまた加害行為があるんじゃないかということで、なかなか当事者として声を上げることができない。かたや共同親権を推進しようとする人たちは時間もありお金もあり、顔が出ても名前が出ても大丈夫。声が大きい側なんです。小さい声をすくい集めることをしていかなければいけないと思うし、そうした事情もくみ取って報道していただければありがたい」と締めくくりました。

※各報道機関でも取り上げられました。

別れた夫婦の子の住まい、一緒に決めて大丈夫? 共同親権で緊急声明
(2023年5月23日 朝日新聞デジタル)

「DV被害者が居場所を隠せなくなる」…離婚後の共同親権に「子の居所指定権」案が浮上 支援団体が反対
(東京新聞 2023年5月23日)

「被害者危険にさらす…」共同親権 導入議論めぐり DV被害者支援団体らが会見
(産経新聞 2023年5月23日)

共同親権は「子どもの命脅かす」 DV被害者側、導入に危機感
(共同通信 2023年5月23日)