4人に1人が”年収の壁”で就労抑制 児童扶養手当の増額と所得制限緩和を〜「2023冬ひとり親家庭就労生活調査」

NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」は2023年12月12日〜17日、メルマガ会員1万人を対象に、ウエブ上で「2023冬ひとり親家庭就労生活調査」を行いました。20歳以下のお子さんがいる2393人から有効回答があり、結果の概要について12月26日に記者発表しました。ご協力いただいた会員のみなさんに感謝いたします。

全47都道府県から回答がありました。親の年齢は40代が約半数を占め、30代が3割いました。

「就労」について

11月中に収入を伴う仕事をした人は85%、うち13%は2つ以上の仕事をしていました。
雇用形態はパートが37%、「正社員等」34%、派遣社員とアルバイト・契約社員がそれぞれ7%、非常勤職員が3%でした。職種では事務職が25%、次いでサービス職、専門職・技術職の順。

11月の就労収入の額は12.5万〜15万円がピークで、17.5万円未満が半数を占めました。11月の収入・賃金は昨年11月とくらべて「上がった」19%、「下がった」26%、「変わらない」55%。

仕事をする上で制約となっていることについて選択肢から選んでもらったところ(複数回答)、「親自身の病気、心身の不調」「子どもの病気、心身の不調」を挙げた人がそれぞれ3割いました。仕事をしていなかった主な理由のトップも「親自身の病気、心身の不調」。ひとり親の多くが不調や病気があっても無理をしながら働いていることがわかりました。

児童扶養手当や給付金、奨学金のために、所得制限を考えて就労収入を抑えたことがあるのは26%と4人に1人にのぼりました。

その際、どの金額を上限としたかを聞いたところ、高等教育の無償化、緊急小口資金の特例貸付の返済免除、臨時給付金受給の条件ともなっている住民税非課税ライン(年収204万円以下)が38%、児童扶養手当全部支給の基準となる年収160万円以下が24%、児童扶養手当一部支給の基準となる年収365万円以下が14%でした。

収入の不足を補うために副業をしている人は337人。内訳は飲食・宿泊業40人、介護職19人、サービス業17人、スーパーマーケット・コンビニなど11人。キャバクラやホステスなど夜の接客業も8人いました。

転職を希望しているのは47%と半数近くで、転職先として興味があるのは「一般事務」「データ入力」「会計・経理」の順。

就労や転職にあたり重視することでは「安心して働けそう」「休暇を取りやすい」「希望する休日・残業・勤務時間である」などが上がりました。希望の雇用形態は「正社員」、年収の希望は「300〜350万円」が最多でした。

「生活」について

11月までの半年間で家計に関する滞納があったのは36%。
費目別では水道、学校納付金、電気通信費、ガス代、電気代、家賃について、それぞれ15〜16%が滞納していました。滞納の理由は「食費などの値上がり」「水光熱費の値上がり」「収入が下がった」など。

11月に払った食費は家族の人数にもよりますが、「3〜3.5万円」がピーク。概ね「2.5〜4万円」に収めようとしている世帯が多かったです。昨年の12月と比べた食費の家計への負担感は「負担に思う」75%、「やや負担に思う」23%。

「昨日、何食食べましたか?」の問いでは、子は「1食」2%、「2食」24%で、4人に1人が欠食していました。親も「1食」19%、「2食」47%で3人に2人が欠食しています。

食費節約のために「ご飯の水の量を増やした」「お粥にした」「乾麺をブヨブヨになるまでゆでて、おなかをふくらせる」などの自由記述がありました。「貧血や低たんぱくで、就労にドクターストップがかかった」という人も数人いました。

健康に影響が出ており、心配です。

児童扶養手当の全部受給者は44%、一部受給者は34%、住民税非課税世帯に該当する人は60%でした。

3人に2人が、4〜10月に家計が赤字になり借り入れ等をしていました。内訳は「貯金を取り崩す」24%、「家族や親戚から借りる」18%、「クレジットカードのキャッシングを利用した」(8%)。借入の目的は生活費、教育費が多く、借入の悩みでは「借りて返して借りての自転車操業になってしまっている」という回答が多くみられました。

何らかの食料支援を受けている人は全体の83%にのぼりました。うち、しんぐるまざあず・ふぉーらむの「ほっとあんしん便」の利用者は1500世帯で、回答者全体の67%でした。食料支援を受けることで「お米が家にないときがなくなった」「子どもが3食食べられるようになった」などの好影響が出ていることもわかりました。

子どもの状況で心配なことを選択肢から選んでもらいました(複数回答)。

「不登校(年間30日以上の欠席)」が13%、「学校への行き渋り」が25%に見られました。

文部科学省の2022年度の調査では小中学生の不登校の率は3.2%で、それに比べるととても高い割合です。子どもの状況に対応するために、親が「仕事を休んだ」(38%)、「短時間の仕事に変わった」(11%)、「仕事を辞めざるを得なかった」(10%)など就労にも影響が出ています。

年末年始の費用を家計から捻出できそうかを聞いたところ、「全くできない」「あまりできない」の合計は、クリスマスで61%、お正月で70%に上りました。

子どもに関するものを買えなかった体験があると答えた人は、「新しい洋服・靴」67%、「文具や学用品」39%、「問題集や参考書」59%、「スマートフォンやパソコン」71%。「子どもの誕生日を祝えなかった」は29%、「部活動関連の費用を払えなかった」は31%、「修学旅行など学校行事に参加できなかった」は10%が体験していました。

その他自由記述ではこんな声がありました。

●11月から1万5000円オーバーしたために、年30万円いただいていた母子手当が0円になってしまいました。段階的に減らしてほしかった。物価高で、社会保険料も上がり、手取りが毎年減っているのに手当がなくなってしまい希望が持てません(石川県、40代、子ども2人)

●子どもが大学生になり、支援がなくなり、学費と生活費の二重苦です(神奈川県、50代、子ども1人)

●とにかく物価が高いので困っています。年収100万円台の家庭にとっては本当に苦しいです。もう削るところがありません(愛知県、40代、子ども2人)

●物価の上昇は健康へ直結しています。子どもは体調不良もあって、体重が増えません。親もよく体調を崩しています。養育費も払えないと言われました。まずは児童扶養手当の所得制限を緩和してほしい。(東京都、30代、子ども2人)

ひとり親家庭支援への提言

調査を受けて、赤石千衣子理事長は次のような提言をまとめました。

●アフターコロナと物価高が、ひとり親と子どもたちの生活を生存ぎりぎりの状況に追い詰めているのは、異常な事態である。

●ひとり親家庭は過酷な生活状況が続いており、今すぐの、恒久的な手当の増額等の支援が望まれる。

●子どもたちの不登校13%、行き渋り25%と多く、早急な支援の手立てが必要である。

●親と子どもの病気や心身の状況が就労の制約となっている。一方、「年収の壁」による就労の抑制をしなくていいような制度が望まれる。

●就労支援の希望は多い一方、ひとり親家庭の制約や状況を考慮した支援が望まれる。

●様々な状況が子どもの育ちや学びに現実に悪影響を与えている。

●養育費の取り立て、立替払い制度などの改善が望まれる。

今後さらに調査の分析を進め、今後の就労支援や政策提言に生かしてまいります。