東京都ひとり親家庭就業推進事業「すてきみらい塾」修了式

すてきな未来に希望をつなぐお仕事を——。
2022年度、東京都の委託を受けてしんぐるまざぁずふぉーらむが取り組んだひとり親家庭就業推進事業「すてきみらい塾」の修了式が3月5日、東京都千代田区の主婦会館プラザエフでありました。

昨年5月開講のシーズン1、9月開講のシーズン2の講座を修了した受講生50人が出席し、修了証書を受け取りました。

●反省したり、笑ったり。充実のワーク

式典に先立つ合同特別講座では、コーチング研修会社ドリーム・フィールドの「ユッキー先生」こと阿部侑生さんが、人を育てるコミュニケーション「コーチング」の極意を、受講生同士のワークを通して伝えました。

阿部さんがコーチングと出会ったのは、アナウンサー時代に職場でパワハラにあった時。心がボロボロで実家に帰り、弟がゴミ箱に捨てていたコーチングの本を読み始めたら、「人生が変わるかも」と思えたと言います。そこには「人が育つ」「人間関係が良くなる」実践的な方法が書かれていました。それは「褒める」「肯定する」「否定しない」「批判しない」「感謝する」「ねぎらう」そして何より、「話を聞き、相手を認める」こと。

すてきみらい塾の開講時、阿部さんは「(講座修了までの)3ヶ月間、私はツイてると思ってください」と言いました。コーチングの土台には「自己基盤」が必要で、それには心も体もご機嫌でいることが大事だからです。修了式では「言葉はエネルギー。自分が言った言葉を脳が聞いています。根っこが長ければタンポポのように、何度踏み潰されても再生できるんです」と改めて伝えました。

そして仕事については、こんな見方を紹介しました。「天職とは英語でCalling。呼ばれるってことです。世界が私に『これをやれ』と言っていないかに、アンテナを立ててください。どんな誘いも断らない、と決めると人生は変わります」

2時間のワークの最後に、阿部さんは「入校式の時と今と、皆さんは顔が違います。困難な事情を超えてやり遂げたことが自信に繋がっているんですね」。

●「仲間と出会えたから頑張れた」「想定外の自分になる」

修了証書授与の後、3人の受講生が、体験を話しました。
Aさんは昨年5月からの日曜クラスを受講。離婚訴訟がこじれ、直前までの半年間は家に引きこもっていたと言います。ハローワークで「すてきみらい塾」を知り、収入を増やす転職がしたいと参加を決めました。講座は午前9時から。

「日曜の朝からはきつかった。ひとりだったら、脱落していた。MOSエクセル検定を受けることもなかった。講座の仲間がいたから頑張れた。みんなで励まし合って、合格しました。秘書検定の2級も取れました。コールセンター(トランスコスモス)で5月から働き、今までより時給も上がりそうです」

先輩メンターや就業コーディネーターの手厚い支援も大きな力になったと言います。

「親戚でもないのに親身になって子どものトラブルのことまで相談に乗ってもらって感謝です。仲間たちも、子どもが高校に合格したことも喜んでくれて。周りにひとり親やドロドロの離婚を経験した人がいなかった。でも、ここではわかってもらえる。そういう人と出会えて本当に良かった」

Bさんは黒のスーツ姿で登壇し、原稿を読み上げました。

「自分だけならすぐに諦めてしまうけど、都が企業との間に入ってくれるなら、やってみようと思った。私、変わりたくて」

長男が大学を卒業したものの、今度は次男の進学に費用がかかります。収入は年金手当8万円のみ。これではいけないと地下鉄で過呼吸を起こしながら、「命懸けで講座に来た」といいます。

経験がスキルになるという言葉に、「家事援助の仕事ならできる」と思いました。

「想定外の自分になると決めた。私は60歳ですが、これからだと思った」

最初の仕事では、携帯で顧客を選ぶボタンが押せず、「もうやめようか」と挫けかけたことも。でも、お客さんの家に入ると、炊事や掃除の困りごとがすぐ目につきました。

「ああ、私は家事援助の仕事が得意だなって」

仕事が終わると「助かりました。ありがとうございます」と感謝され、やりがいも感じました。

ただ、順風満帆ではありませんでした。8月にはで汗だくになり、目が回って、翌日の仕事をキャンセルしました。11月には椎間板ヘルニアを発症し、1ヶ月間寝たきりに。「辞めなければいけないかも」と思ったBさんを励ましたのは、チャット欄に届いた顧客からのメッセージでした。

「Bさんじゃないとダメです」

「早く治って、来てください」

Bさんはスピーチをこんな言葉で締めくくりました。

「道を作ってくれる人がいるから迷わず進んでいける。お仕事って素晴らしい。私もいつか若いママたちのお手伝いをしたいと、夢がどんどん膨らんでいきました。修了生の皆さん、おめでとうございます。ともに頑張っていきましょう」

Cさんは子どもの進学を機に、ステップアップを目指しました。これまではパートで販売の仕事をしていましたが、事務もパソコンも未経験。最初は、講座で教わったことについて行くだけで精一杯だったといいます。お守りになったのは、ユッキー先生の「助けてと言える人が自立している人」という言葉でした。「もう無理」といいながらも、毎日必ずパソコンに向かうようにしました。MOS エクセル検定の前は、夢に出てくるほどのプレッシャーがありましたが、受講生仲間やメンターの人たちに支えてもらって見事合格し、「未知の世界が広がりました」。

●「私って結構できるじゃん」と自信を持って

東京都の育成支援課の榎本光宏課長はメッセージを寄せました。

「この日を迎えることができたことを心からお祝いもうしあげます。この事業はひとり親の家庭の皆さまが安定した収入のもと、お子さんを健やかに育むことができるよう、就職や転職を応援するために実施しました。お子さんを育てながらの訓練受講、資格取得、就職活動にはさまざまなご苦労があったと思います。負担の大きな生活の中で、修了までやり遂げたことにはとても大きな意味があります。これからも仕事や子育てをしていく中で困難に直面することがあるかもしれませんが、このすてきみらい塾で就業コーディネーターや先輩メンターと一緒に頑張った経験を活かして、前に進んで行っていただきたいと思います。幸多き未来が待っていますように」

しんぐるまざぁず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長はこんな言葉を送りました。

「皆さんが努力されて、たいへんな思いをされながらここまで来られたんだな、と実感しました。ここにいらっしゃる皆さんのドラマがすごすぎる、と感じています。今日、皆さんのお顔を見ていて、綺麗だな、くっきりしてこられたな、笑顔がすてきだな、美しいなと思いました。皆さんすごく学ばれたと思うんです。勉強ができるんだと実感されたと思うんです」

「助けを呼んで相談していいとわかった。この世の中で少数派と思っていたかもしれないけど、仲間がいるんだともわかった。そして、私って結構できるじゃんという自信を皆さんが持っていいってことなんです。皆さんの変化をとても嬉しく思っています」

「ひとり親と子どもをめぐる状況は厳しいです。でもこうやって変化は起こせるし、道は太くなると思っています」

受講生は数人ずつ集まって写真を撮り合い、いつまでもその場から去り難い様子でおしゃべりをしていました。まるで大きな一つの家族のようでした。