「頑張るほど見捨てられる」児童扶養手当の190万円、非課税の204万円、ひとり親世帯にも「年収の壁」

NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむは12月13日、20歳以下の子どもを持つひとり親家庭を対象にしたアンケート調査の結果を発表しました。

特に、今回はひとり親世帯の年収の壁について注目して発表しました。

ひとり親世帯の年収の壁

「給付金や手当をもらうために所得制限を考えて就労収入を抑えたことがある」は29%(517人)。

その際、上限をどこに設定したかは「年収204万円=親1人、子1人の住民税非課税」が36%、「年収190万円=児童扶養手当全部支給」が24%、「年収385万円=児童扶養手当一部支給」と「年収106万円=厚生年金、健康保険に加入」が各16%、「年収130万円=国民年金、国民健康保険に加入」が9%でした。

児童扶養手当の額は2024年11月支給分から月2,590円上がり、全部支給が45,500円、一部支給が10,790円〜45,490円となりました。子ども2人目以降の加算額は、3人目以降が2人目と同額となり、全部支給が10,750円、一部支給が5,380〜10,740円になりました。

1994年の金額を100として、伸び率を比較すると、最低賃金が177.3になったのに対し、児童扶養手当は115.5。児童扶養手当の所得制限は1998年以前が全部支給204.8万円、一部支給が407.8万円だったのに対し、1998年から2002年にかけて極端に減らされた結果、2024年が全部支給190万円、一部支給385万円と、30年前の水準にすら戻っていません。

【「年収の壁」についての自由記述】

・50代で離婚だし、子育てはワンオペなので、休みや時間に融通が効くパートで仕方ないと思っている。非課税の「年収の壁」による働き控えをして学費など何とかやっているが、壁の基準が低いので年収が低い。今から正社員になれたとして、子どもたちをあまりかまえない生活になると、また不登校など悲しい思いをさせてしまうと想像している。情けないが壁を意識して働き、少ない年収でやりくりすることにしている。(東京都、50代、子ども2人、パート、月収12.5〜15万円)

・今月転職しました。長年派遣社員でした。パワハラ社員に目の敵にされ、精神的にも金銭的にも限界になり、エージェント経由で何とか正社員で仕事を見つけました。仕事はきついと思いますが、なんとか食らいつきたいと思っています。しかし、収入が増えたら次は色々な支援がもらえなくなります。民間の食料支援も非課税や生活保護の方が優先なので、どんどん見捨てられることに不安も大きいです。帰宅が遅いので子ども食堂に行く時間もありません。頑張ると見捨てられるんだな、と感じています。(東京都、40代、子ども2人、正社員、月収17.5〜20万円)

・家賃が収入の半分、残りはカードローンを支払い、終わってしまう、食費なんて残らない。物価高騰が続いている中で、非課税の人だけ見ないでほしい。課税されて税金の支払いも滞納せざるを得ない人にも目を向けてほしい。コロナ貸付金の返済猶予を申請したけれど、非課税ではないので却下されました。学費とガス代2ヶ月分、滞納しています。払いたくても払えない現実を認めてほしい。(千葉県、40代、子ども2人、派遣社員、月収22.5〜25万円)

・収入増に伴い、今年の11月から児童扶養手当の対象外となりましたが、家計にゆとりはありません。むしろ、手当が0円になり、給食費や親の医療費も発生するようになり、クレジットカードがないと生活ができない状況。児童扶養手当の所得制限が見直されましたが、もっと手当支給の対象を広げてほしい。(神奈川県、40代、子ども1人、正社員、月収25〜27.5万円)

・児童扶養手当を第1子の金額×子どもの人数に変更してください。2人いれば、それぞれの子どもに対して費用が同額ずつかかると考えていただきたい。子ども2人目に対しての手当が乏しく生活が苦しいです。(兵庫県、40代、子ども2人、パート、月収7.5〜10万円)

・ひとり親の非課税の年収上限が低いです。物価高騰の余波もあり、生活は以前に増して厳しいのに、非課税の上限に当てはまらず、支援の対象外になってしまいます。特に子ども2人のひとり親の非課税年収上限が、子ども1人の場合と1万円しか違わない。おかしいと思います。3人いたら250万円ほどになるのに、2人の場合は205万円で大きな違いです。3人以上の方は大学無償化の対象にもなるのに……。この不公平をどうにかしてほしいと思います。(埼玉県、30代、子ども2人、嘱託職員、月収12.5〜15万円)

賃金は変らず物価高が生活を圧迫

11月中に収入を伴う仕事をした人は86%。うちパート・アルバイトや派遣など非正規雇用が62%を占めました。全体の15%にあたる315人が2つ以上の仕事を掛け持ちしていました。副業の内容は飲食店が最多で38人。タイミーなどで探した単発バイトが急増し、33人にのぼりました。

11月の就労収入は12.5〜15万円が最も多く、中央値は昨年と変化がありませんでした。昨年同月に比べ、賃金が「上がった」は24%、「変わらない」55%、「下がった」20%。非正規雇用が多いひとり親の賃上げが進んでいない状況がわかります。

一方で、1ヶ月の食費は上振れしていました。24年10月の世帯の食費は「4万円以上」が全体の40%を占め、昨年の35%を上回りました。特に「5万円以上」が14%から19%へと急伸しています。食費の家計への負担感では「昨年よりとても負担に思う」が79%、「やや負担に思う」が20%。

子どもの数と月の食費をクロス集計した結果、子ども1人世帯で月2万円未満、子ども2人世帯で月3万円未満の、「1食=100円」前後の暮らしをしている世帯が、子1人世帯の17%、子2人世帯の25%にのぼることもわかりました。

食費の増加に対応する方法は「食べない」こと。

「昨日、何食食べましたか?」の問いに、学校給食がある期間にもかかわらず、子の2%が「1食」、31%が「2食」と回答しました。親も20%が「1食」、49%が「2食」と回答し、広く欠食が広がっています。

年末年始の費用を家計から捻出できるかを聞いたところ、「全くできない」「あまりできない」の合計はクリスマスが62%、お正月は73%でした。


「子どもの新しい服や靴が買えなかった」は65%、「家族が必要とするお米を買えなかった」は48%いました。

【親は1食、節約のためスーパーで水汲み】

・自分は1日1食、主食はもやし(埼玉県、40代、子ども1人、就労収入なし)

・子どもの食事だけ準備して、余ったら自分も食べる。余らなかったら何も食べない(京都府、30代、子ども1人、正社員、月収17.5〜20万円)

・お米が値上がりしたので安く手に入った麦などを足し、水を多めに炊く(千葉県、30代、子ども2人、パート、月収12.5〜15万円)

水道代節約のため、無料の水を汲みに行く、風呂の水を換えない、トイレは何回分かをまとめて流す、という回答が目立ちました。

・水はスーパーの無料の水で、親子で毎日水筒を持って行って汲む。(三重県、40代、子ども1人、派遣社員、月収10〜12.5万円)

・もやしで栄養を取って、こんにゃくで腹持ちよくする。水はスーパーにあるボトルを購入して、スーパーで汲んできた水を使う。(千葉県、30代、子ども3人、就労収入なし)

・会社を出る前に、水筒に水を入れて持ち帰り、家の水を使わないようにしています。(愛知県、20代、子ども1人、アルバイト、月収5〜7.5万円)

・お風呂の湯は2日に1回しか換えません。(大阪府、30代、子ども1人、自営業、月収15〜17.5万円)

・洗濯は週1程度、同じものを着ている。お風呂の水を換えるのも洗濯したときのみ。(岩手県、40代、子ども1人、正社員、月収15〜17.5万円)

・トイレは1回ずつ流さず、3回したら流すようにしている。(大分県、30代、子ども2人、正社員、月収12.5〜15万円)

・トイレはなるべく子どもと入って一気に流す。(東京都、40代、子ども1人、就労収入なし)

・子どもが高校を卒業すると、途端にいろんな支援が切られてしまいます。児童扶養手当もフードバンクも、です。18歳からの高等教育がとてもお金がかかります。自分の食費と光熱費を削って、夜はロウソクで生活しています。仕事も今月からダブルワークを始めました。働けば働くほどなんの支援も受けられなくて借金を増やすだけです。この4月から娘の私学に伴ってお金がいることから、私は1日1食の生活となり、7kgも痩せました。ひとり親家庭の18歳以上の子どもに何かしらの支援をお願いできないでしょうか?(熊本県、50代、子ども1人、嘱託職員、月収15〜17.5万円)

アンケートの結果を受け、しんぐるまざあず・ふぉーらむが提言をまとめました。

●ひとり親世帯への児童扶養手当の所得制限(一部支給・世帯人数2人)を、現行の年収385万円から年収590万円(私立高校無償化ライン)まで引き上げてください。

●児童扶養手当の給付月額を大幅に引き上げ、少なくとも1万円増額し45,500円から55,500円にしてください。子ども2人目以降の加算額も1万円増額し、10,750円から20,750円としてください。

●ひとり親世帯の住民税非課税のラインを子1人300万円に上げてください。子2人以降の額も50万円ずつあげるようにしてください。(住民税非課税のラインは臨時給付金の対象、緊急小口資金の返済免除のライン、修学支援新制度の第一区分などのラインです)

●養育費の算定表の額を定期的に見直すとともに、物価高などの変動がある場合は早急に見直してください。

●部活費用の軽減、修学旅行などに子どもが参加できるように、就学援助制度を見直してください。

ひとり親家庭就労生活調査

コロナ禍や物価高騰がひとり親世帯の家計に与える影響をみるため、同様のアンケートを2021年から毎年年末に行っています。今年の有効回答数は2065件。北海道から沖縄まですべての都道府県から回答がありました。同居している子どもの人数は1〜2人が多く、親の年齢は20代〜60代で、40代が52%と最多でした。