3月18日 子どもの見守り体制強化促進に向けたシンポジウム開催されました

子どもの見守り体制強化促進に向けたシンポジウムが3月18日、オンラインで開かれました。ひとり親への食料支援に取り組む団体や利用者を中心に33人が参加。具体的な事例をもとに、子どもの権利保護や行政との連携について話し合いました。

このシンポジウムは、しんぐるまざぁず・ふぉーらむが、厚生労働省の助成を受けて取り組む、支援を必要とする子どもの見守り強化支援広報啓発事業の一環です。

●ヤングケアラー、ひとり親家庭、児童虐待

支援を必要としている子どもって、どのぐらいいるのでしょう?

家族の世話をしているヤングケアラーは2020年度、21年度の調査で、小6の6・5%、中2の5・7%、高2の4・1%、大3の6・2%でした。世話をしている相手は「きょうだい」が多く、大学生では「母親」が35・4%でトップ。自分ではヤングケアラーと気づいていない子も多く、自尊心に配慮した支援が必要といいます。

ひとり親家庭は母子が123万2000世帯、父子が18万7000世帯。多くが非正規やパート・アルバイトなどの不安定雇用で、収入も低く、毎日がスクランブルの状況。

児童虐待の相談対応件数も右肩上がりに増えていて、死亡事例の検証では「0歳児が約半数(心中を除く)」「加害者の54・6%が実母」「予期せぬ妊娠や妊婦健診の未受診がそれぞれ3割弱」の三つの特徴があり、妊娠した段階から接点を作って伴走する支援が必要です。

●子どもの話をしっかり聞いて

こうしたデータを受け、東洋大学名誉教授の森田明美さんは、「子ども支援とは子どもの最善の利益を具体化すること」と指摘。「安心・安全と挑戦の二つの側面から子どもを支える必要がある」と話しました。子どもの権利条約の四つの一般原則「生命・生存・発達に対する権利」「子どもの最善の利益」「子どもの意見の尊重」「差別の禁止」を念頭に、子どもの話をしっかり聞き、個別的・普遍的・重曹的・継続的な支援を組み立てることを求めました。

●食のアウトリーチは効果的

新型コロナによる一斉休校後、子ども食堂や学習支援が宅配や訪問などのアウトリーチ型に転換。在宅の子どもと家庭の悩みを、支援団体と地域が支える体制が出来つつあります。3団体が具体的な活動を報告しました。

宮崎ひとり親家庭支援ネットワーク(宮崎県)の長友宮子さんは「コロナで食支援が増えた。食のアウトリーチは効果的です。訪問すると家の中が雑然としているなど他の課題も見える。ワンオペサポートが欲しいという声もあり、ひとり親家庭への日常生活支援が必要です」。



NPO法人こどもステーション(広島県)の奥野しのぶさんは、「ひとり親家庭の再婚に伴うステップファミリーの中でのDVや、虐待・DVで傷ついた母親の子育てに課題がある」とし、「自分から支援が必要とは言わないこうした人たちへの介入や受け入れの境界線をどう引くかが難しい」と話しました。そして、整理収納アドバイザーのスタッフが訪問して、居室の整頓を一緒にしながら見守りを継続している例などを紹介しました。


川越子ども応援パントリー(埼玉県)の時野閏さんは、市内のお寺を拠点にしたフードパントリー、学習教室・子どもの居場所「てらこや」の活動を紹介。古墳見学や夜祭探訪、水族館や美術館に出かけるなど、体験増進事業にも力を入れています。県や市から食糧支援の依頼を受けたケースで、子どもや家庭の困り事を個別に拾って、継続的な支援に繋げていました。


●同意を取る、名前を呼ぶ、ハッピーではないことをしない

パネルディスカッションでは、しんぐるまざぁず・ふぉーらむの赤石千衣子理事長が3団体に「子どもの権利という観点で留意していること」について聞きました。

奥野さんは「子どもとの約束を決め、大人も守る」「体に触れる、持ち物を動かす、名札を貼るなど、必ず子どもの同意を取る」「〜さん、と名前を呼び、あなたを大事に思っていると示す」。

長友さんは「子どもがハッピーではないことをしないのが大前提。お母さんが楽しそうに話をしていると、子どもが突然泣き出したことがある。こっちを見て、という子の信号をいかにキャッチするかに気をつけている」。

時野さんは「子どもがいろんな刺激を受けて、将来に向かって歩めるように体験事業に力を入れている。なるべくルールを作らず、子どもを交えたミーティングで決めていく。小さい女の子が男性スタッフにベタベタしてしまうなど、愛着形成に課題を抱えた子への接し方について、スタッフ間で話し合ってルールを決めました」。

●みんな頼っていいんだよ、という意識を地域で醸成

自治体との連携や予算などにも課題があります。

時野さんは「NPOではないので、資金的に厳しい。県や市からの紹介で支援することになるケースも多いが、予算がつくわけではない。毎日が締め切りのような活動」。

奥野さんも「頭脳も人もお金も足りない。行政との連携もがっつりとはいただけていない」。

長友さんは「国や民間の支援のスピードに比べると、自治体は少し遅い。基礎自治体が支援の制度や内容の変化に追いついていくのに課題がある」と指摘しました。

2024年4月から児童福祉法改正に伴い、各市区町村に子ども家庭支援センターが設置され、母子保健事業と児童虐待対応が一本化されます。このセンターの支援事業の中に、民間団体の見守り支援活動が位置づけられる見込みと言います。

一緒に家事をしながら愚痴を聞いてもらったり、子育てのアドバイスを受けたりする「子育て世帯訪問支援事業」を始める自治体もあります。

参加者からは「自治体が計画を作るにあたって、さまざまな担い手が必要になる。団体の側でもこういうサポートの形があると知って、提示していくことが大事ですね」という意見が出され、赤石さんも「ニーズ調査などを届けながら、働きかけていきましょう」と呼びかけました。

●みんなで力を合わせて

シンポジウムの最後に森田さんは、「子どもの立ち位置から一言」を加えました。

「今いろんなところで人権侵害が起きている。何かあった時の子どもの通報システムを作ると同時に、人権侵害が起きないようにする努力を、今一度、肝に銘じてほしい」

その上で、こんな言葉で締めくくりました。

「人材が不足し、市民活動を動かすのは難しい時代に入っていくでしょう。けれど、頑張りすぎて倒れないように。社会福祉法人の場所や専門家を借りる。福祉の研究者の力を借りる。みんなで力を合わせて子どもたちの支援を作っていきましょう。これまでのような児童の保護から健全育成へ、子どもを支援する地域・まちづくりへと進化させていきましょう」