守られなくなった約束 自営業の場合
今から16年前の1988年に離婚した時、一人娘は3歳でした。離婚の直接の原因は、子どもの父親に好きな人ができたからです。
しかも、その人は私の友人でした。とは言っても、私には最初、結婚相手の他に好きな人ができたということが即、離婚と結びつくとは思えませんでした。
人を好きになるということはいつ、誰にでもあり得ることだし、今どんなにこの人が好きだと思っても、いつか別の人に心が移るということはどうしようもないことだと思っていました。
だから、そのことと結婚生活の維持とは別の次元で考えるものだと思っていたのです。
ところが、こうなるとこれまでの結婚生活に対する不満が吹き出し、最終的には彼の「こんな結婚を望んでいたわけではない!」という一言で、私は離婚を決意したのです。
それからは早かった。
娘と二人で住む家を見つけ、仕事を見つけ、ちゃっちゃっと引っ越しして新しい生活を始めました。ですから、私の場合は協議離婚です。
弁護士や裁判所は一切使っていません。ただ、やはりお金のことになるともめると思い、早め早めに要求し、二人で決めて、リポート用紙に一筆書いてハンコを押してもらいました。
この時点では、彼は私以外に好きな人ができたことで、私にすまないと思っていたらしく、割合スムーズに決まりました。
この時に彼が書いた一筆は以下のようなものです。
●私、○○○○(元夫)は、△△△△(私)に対し、下記の通り借入金および離婚諸費用を支払う事を約束します。
1988年◯月◯日 ◯◯万円
1988年◯月◯日 ◯◯万円 1988年◯月◯日 ◯◯万円
1988年◯月◯日 ◯◯万円 上記、合計◯◯◯万円で、総ての精算を終わります。
●●私、○○○○は、・・・・(娘)に対して、下記の通り養育費を支払う事を約束します。 1988年◯月より毎月3万円を末日までに・・名義の通帳に振込みます。小学および中学、高校、大学に入学した時は毎月の養育費を増額します。 1988年◯月◯日 ○○○○(押印)
この借入金および離婚諸費用というのは、いわゆる慰謝料と私が結婚の時に持っていた貯金です。
彼は商売をしていたため、私の貯金をくずしていくらか資金に充てていたためです。これは、離婚した年のうちに支払う約束でしたので、全額が支払われました。
しかしながら、養育費に関しては、2年と5ヶ月はここに書かれている通り毎月払われましたが、それ以後はパタッと止まりました。
止まってから2年後ぐらいに一度だけ1万円が振込まれていて、それが最後でした。 養育費を払っていた最初のころは、娘に会いに来たり電話をしてきたり、わりと頻繁に娘に連絡は取っていたと思います。
それが、だんだんと疎遠になり、いつの間にかまったく連絡がなくなりました。
その頃、例の好きになった人と再婚したことを知りました。それでも、私としては娘の父親だし、娘は慕っているしで、ときどき手紙を出して近況を報告したりしていました。
私も彼も学生時代からスポーツ好きでずっと運動をしていましたので、娘が小学校の6年生の時、ポートボールの最後の試合、しかも優勝しそうな試合ということで、久しぶりに連絡をとって試合の時間と場所を知らせたところ見に来ました。
その時は、娘に確か小遣いとして5千円を渡していましたが、私に養育費を渡しはしませんでした。
この時、彼がとても痩せていてみすぼらしく、ものすごく卑屈な印象を受けたことが忘れられません。
なのに、彼は「いつかは娘を引きとっていっしょに暮らしたい」と言うのです。「アホか!」と思いましたが、ちょっと恐くなったことも事実です。
でも、彼女が(私の友人だったので)私が彼と会うのを嫌がっている、と聞かされて「娘の気持ちはどうなんや!」と腹が立ったことも覚えています。
養育費が支払われなくなってから、私は時々例の一筆書かせた紙のコピーと、その時点での養育費の請求額を請求書にして郵送していました。
しかし、そのポートボールの試合を最後に、彼からは一切音信が途絶え、今に至っています。
今では、請求書を送るのも切手代がもったいないだけやなと思い、やめてしまいました。
娘には、この間の事情はすべて、聞かれたら正直に答えています。よく「父親の悪口は言わない方がいい」と言われますが、私は母親が自分の気持ちに正直でいいと思うのです。
子どもに質問された時には、その時点での自分の気持ちを偽らずに子どもに話してもいいのではないでしょうか。子どもには重くても、いつか大きくなったら分かってくれると思います。
それよりも、つねに優等生の良い母親をし続けなければならないプレッシャーの方が大きな問題ではないかと思うのです。
さて、子どもの父親は今頃どこでどうしているのでしょうか。
彼はきっと、養育費を払えない父親に子どもと会う権利なんかないと思っていたのではないでしょうか。そういうふうに考える人でした。でも、私は一度だって、養育費と子どもに会うことを結び付けて考えたことはありません。
父親と会うことは子どもの権利です。どんな父親だって、子どもが会いたければ会えばいいと思うのです。
娘にとって父親は、養育費の払えない貧乏な父親、ではなくて、お金がないからといって子どもにも会えない情けない父親、なのです。
娘に会えるよう私が作った機会を何度も棒にふって、娘の大切な成長の瞬間を共有する機会を逃した彼が、私には哀れに思えるのです。
今でも、こんなステキな娘に育ったよ、と見せてあげたい思いなのです。
養育費として貸してるお金は、もちろんちゃんと返してもらいたいですけどね。
(JUNKO)